会 長 挨 拶

                        

2010年6月

                          総合政策危機管理学会・会長 杉山徹宗  

       

 危機管理という言葉には大きく分けて2つある。1つは国家的危機を如何に対処し管理するかの意味で、敵の軍事侵攻、巨大地震、巨大台風など国家の基盤を危うくするような危険や危機に、如何に対処するかを考える「Crisis Management」と、もう1つは企業や社会あるいは家族・個人など襲いかかる危険や危機などへの対処を考える「Risk Management」の意味がある。

 先ず、「国家の危機管理(Crisis Management)」については、国の独立と平和を守り、その領域を保全するとともに、国際テロ、サイバーテロ、拉致、大量破壊兵器など多様な脅威に対処する必要があり、また大規模な自然災害や原子力災害なども予防し、その被害を最小限にして国民の安全を守るなどの処置がなされていなければならない。これらの危険・危機には自衛隊・警察・消防などと共に、地方の行政機関も対処しなければならない。

 次に、Risk Management として以下の3つがある。

第1は「社会の危機管理」である。社会には学校や病院あるいはダムや鉄道など社会資本と呼ぶものがあるが、日々の社会生活が安全に運営されるためには如何なる管理が必要か、危機発生の場合の対処は如何にすべきか、等が必要である。これらには警察、消防、文部科学省、国土交通省などの公的機関、私立の組織・機関・団体などがある。

 第2は「企業の危機管理」である。日本には2010年度の時点で430万社があり、6000万人が就労しているが、経営者や社員のモラル低下から、各種の危険・危機への対応能力が欠如するために大幅な損益とリストラ・倒産などが相次ぎ、必然的に社会や家庭にも多大な影響を及ぼしている。さらに国際化・情報化そして科学技術の急進展によって、企業経営を外部から襲う危険・危機も増大しているが、欧米企業と比較すると日本企業経営者の危機管理能力は極めて低いと言わざるを得ない。

 第3は「家族・個人の危機管理」である。家族や個人に襲いかかる犯罪、例えば振り込め詐欺を始め、傷害、暴力などの他、怪我や病気なども危険であり危機にもなる。これら個人に振りかかる危険や危機に対して、如何に対処するかが個人の危機管理である。

 以上、危機管理の知識は本来ならば社会に出る前に、学校で学んでおく必要があるが、遺憾ながら日本では中学・高校はもとより、大学においてさえも危機管理科目が殆ど設置されていない。

200210月に(財)ディフェンス リサーチ センターが実施した日本全国の大学へのアンケート調査によれば、回答状況は極めて低調ながら、危機管理科目を設置している大学は、回答のあった120大学中にわずか2大学、安全保障科目は9大学であった。 

 その上、安全保障科目は正規のカリキュラムではなく、担当教授の演習(ゼミ)科目としての設置ばかりであった。尤も危機管理や安全保障科目を設置したいが、担当する教員がいないと答えた大学は12大学にも及んでいる。因みに米英独仏など主要国の大学には、必ずと言ってよいほど危機管理や安全保障の科目が設置されている。

 このため、本学会は、企業現場で危機管理に従事している実務者や、警察や軍事という危機管理の現場で活躍している危機管理のスペシャリスト(自衛官、警察官、消防官、海上保安官、公安調査官)、など多くの人材に参加を求め、大学などが要求する学術論文の蓄積を図り、今後、必要とされる大学、企業、自治体などへ、教授や指導者として参画・活躍できる道を開くことを目的としている。

 公務員として60歳前後で退官したり、企業を退職する人々で、若者に危機管理知識を教育するために、大学や地方自治体などに就職を目指している者は、退官や退職する前の10年以上前から、準備をする必要がある。

即ち、大学や短大などに就職するためには、危機管理に関する論文を現職を辞めるまでの間に、1編や2編ではなく、最低10編以上を書いておく必要がある。このため、本学会では、会員が書いた論文を評価すると共に、優秀な論文は本学会のホーム・ページに掲載することにしている。但し、職場の関係で論文掲載を希望せず、単に学会に送って蓄積して置きたい場合は、個人毎に纏めて保管しておくことが出来る。

仮に、大学や自治体あるいは企業へ就職をする際に、これまでに書いた論文を大学なり自治体の面接者が、評価のために読みたいと希望する場合は、当学会から会員の指定する論文を対象となる団体へ送付することが出来る。

 また時代の要請する論文は、現場や実務での経験を経た上での理論を要求しており、理論だけの考えでは実際の大学教育に生かすことは難しくなっている。さらに、多くの学会論文の特徴として、政策科学としての提言が見られないが、社会に貢献するためには実体験を経た提言なども積極的に生かした内容でなければならない。

 そうした意味を込めて本学会の名称は「総合政策危機管理学会」としている。以上を纏めると、本学会の目的は、

1.危機管理・安全保障の現場で実務を担当している現役またはOB OG)を、大学、短大、専門学校、地方自治体などに参画させ、活躍の道を開くと同時に、国民に危機管理・安全保障の知識を啓蒙してもらう。

2.大学や短大などに、「危機管理」「安全保障」のカリキュラム設置と学科開設を積極的に推進する。
3.危機管理や安全保障に関する論文を受理し、審査のうえ優秀論文は事務局に保管し、教育機関などからの採用要請に備える。

以上である。